護身術

文字だけで説明するのは難しいですが、女性に覚えていてほしい護身術がひとつあります。相手が拳銃などを持っていれば別ですが、それ以外の場合で一番最初に狙われるのは手首です。相手(襲う側) が武器を持っていない丸腰の状態だと最初に手首を掴まれる確率が高くなります。

手首を掴まれるとよほど力で勝っていないと振りほどくのは難しいものです。手首を掴まれたらまず掴まれたほうの手のひらを大きく開いてください。 そして反対側の手で自分の手のひらを掴みます。 それを大きく回します。 これでほとんどの場合、相手の手は離れます。

(文字だけですとイメージが掴みにくいので、機会があったら自分よりも腕力の強い人とふたり組になって試してみてください。)



殺されるよりは自分で死ぬ

今でもムラーの母親が彼に私を殺させようとしたのかどうかはわからない。ただ個人的にはかなりメンタルを病んでいてパニック障害のような症状をよく起こしていたムラー自身が自ら私を殺そうとしたとは思えない。 


それでも私が大使館と連絡をとり始めたことがわかった以上、早めに何とかしたほうがいいとはムラー自身も思っただろう。


体力差や腕力差が著しい場合、距離が近づいたり揉み合いになったらほとんど場合力の弱いほうが負ける。


ムラーは玄関を背にしており、私は小さなキッチンを背にしていた。私はすぐにキッチンの包丁を手にした。包丁は一本しかないのはわかっていた。


停電でロウソクの光しかないのでムラーの表情はよくわからない。 ただメンタルを病んでパニック障害のような症状を時折見せるムラーに簡単にひとが殺せるとも思わなかった。


私は手にした包丁をムラーではなく自分の首に突きつけた。 死別をしてから私はメンタル疾患についてはかなり色々な記事を読んでいた。その中に、メンタル疾患の患者は攻撃に対して過剰反応をするということがよく書かれていた。


そういう意味ではメンタルを病んでいるムラーに包丁を突きつけるのは得策ではないと思った。


自分の首に包丁を突きつけはしたものの、その後どうしていいかわからない。ふたりとも馬鹿みたいにただ立っているだけだ。 武道の試合もそうだが、どちらかが動かなければ闘いは始まらない。


ただこの場合は試合ではないから闘いを始めないことがある意味一番の勝利だ。 


私は自分の首に包丁を突きつけたまま低い声で話始めた。


「殺されるくらいなら自分で死ぬ。日本大使館はもうこの場所を把握していて明日には救出にくるはずだ。血液は拭き取っても化学反応でわかる。私が自分で死んでも状況から考えてあなたが殺したということで確実に逮捕されるだろう」


これから殺人を犯そうという男でも、自分が冤罪で逮捕されると思うと不条理だと考えて心が騒つくだろうと思った。


「もし私に何もしなければ、大使館はあなたに日本行きのビザを特別に発行してくれるだろう。どちらが得かわかるでしょう」


ムラーは「本当か?」と訊いてきた。


私は大きく頷いて「本当だ、それは確実に約束できる」と言った。


嘘はついていない。バングラデシュと日本に犯罪者引き渡し協定があるかどうかはわからなかったが、私が日本でムラーを詐欺、拉致、監禁で訴えれば裁判のために渡航できる可能性はあるだろう。犯罪の被告人として。


ムラーは黙ったままだった。 外の雨はまだかなり強かった。


あの美少女がこの家の内情を色々教えてくれていたが、一番役に立った情報は「ムラーは米俵を担げるほど体力はあるが、頭と気は一族の中で一番弱い」ということだった。


(続く)



 今日のドイツ語 ( 709 ) 

Botschaft (ボートシャフト)

これは英語の「Embassy 」で 「大使館 」の意味です。
領事館は「konsulat」になります。
 
.。o○.。o○.。o○.。







ヨーロッパランキング














 
スポンサードリンク